優勝しなけりゃビリも同然ー監督たちのペナントレース 

大リーグの監督交代劇は恒例の年中行事になったようです。
だが、1982年はやや異常といえるものといえそうです。。
シーズン中に5球団で交代があり、ニューヨーク・ヤンキースにいたっては
2回も演じている。さらに、シーズン終了直後に3球団で交代がありました。

ボルティモア・オリオールズのアール・ウイーバーは、予告ずみの辞任なので
別と考えていいでしょう。カリフォルニア・エンジェルスのジーン・モークは地区優勝したものの
リーグ制覇出来ず、辞任ではありますが追い込まれての処置でいささか解任気味です。

大方の見方では、ウイーバー、トム・ラソーダ、ジーン・モーク、ディック・ウイリアムス、ビリー・マーチン
の5人がAランク、スパーキー・アンダーソン、ディック・ハウザー、チャック・タナー、ジョー・トーレ、
ビル・バードンの5人がBランク、残りがCランクと見られています。

ところが、Aランクのマーチンはクビ、ウイーバーは勇退辞任、モークは解任ぎみ辞任と
一体どうなっているのかと思う次第です。

これまで大リーグは、おおらかにベースボールをやってきたはずでした。
勝ち負けは二の次で、まず観客の足を球場に向けさせることというムードがありました。
それが、日本のプロ野球のように勝利至上主義になってきてしまったようで、
ワールド・シリーズで勝たなければ、ビリと同じという見方が広まってきたようです。

●これだけ替わった今季の監督たち

ヤンキース=ボブ・レモン→ジーン・マイケル→クライド・キング
ブリューワーズ=ボブ・ロジャース→ハービー・キーン
レンジャース=ドン・ジマー→ダレル・ジョンソン
レッズ=ジョン・マクナマラ→ラス・ニクソン
アストロズ=ビル・バードン→ボブ・リリス
エンジェルス=ジーン・モーク→ジョン・マクナマラ
アスレティックス=ビリー・マーチン→スティーブ・ボロス
オリオールズ=アール・ウイーバー→ジョー・オルトベリ
インディアンス=デーブ・ガルシア→マイク・フェラーロ
エクスポス=ジム・ファニング→ビル・バードン

この中でクビになってすぐに新監督として復帰したのが、ビル・バードンとジョン・マクナマラの
二人で、監督としての資質に問題があるならば、すぐに復帰はありえない話ではないでしょうか。
まさに、???です。

クビになったビリー・マーチンは1975年にヤンキースの監督として復帰した時の年棒が25万ドルで
”なんたる高給!”とおどろいた人は多かったが、ヤンキースに入ってしまえば中程度のサラリーになり、
マーチンがニューヨーク市内にウエスタンの衣料店を開き、アルバイトしていたなんて話もあります。

監督の待遇とはこの程度のもので、チームが低迷すればすぐにツメ腹を切らされる立場にいるのです。

ヒューストン・アストロズを一躍優勝コンテンダーに押し上げ、3回も最優秀監督に輝いたビル・バードン
でも、アメリカン・リーグでお荷物球団と化していたオークランド・アスレチックスで選手をうまく再生させ
リッキー・ヘンダーソンという大スターを作り上げたビリー・マーチンでも即刻クビになる状態なのです。

ここでは、過去の実績や名前も通用しない、待遇の割には責任が重たく、はなはだ難しい仕事の
割には、まったくといっていいほど情状酌量がありません。

往年のアスレチックスのコニー・マック監督は、通算で3776勝4025敗で勝ち星も負け数もトップで
通算勝率は.484で5割にも届いていません。ですが、マックは1894年から1950年までなんと
53年間も監督を続けています。いまや、こんなことを許すオーナーは一人もいません。
いまの時代でマックが監督を、もしやっていたら?
ビリー・マーチンなみに6回くらいクビを切られているのではないでしょうか。
なにしろ、53年間で優勝はたったの9回で
ワールド・チャンピオンには5回しかなっていないのですから・・・。(笑)

今季かぎりで勇退した名将アール・ウイーバー。
彼ほどの名監督でもチームの主軸選手と不仲だったといわれている。
これは、ベンチ内の25人の選手がバラバラに、しかも強烈に個性を主張するからで
こんなときに当の監督は「こいつはE・Tか?」と映るらしい。

ウイーバーに話を戻すと、彼はヒマが出来ると自宅の庭で大好きな園芸を楽しむということで
バラやランといった高尚なものではなく、ひたすらビッグサイズのトマトやカリフラワーなどを
つくっているのである。「わけのわからない選手どもより、このトマトのほうがオレのいうことを
よく聞くよ」といったかいわないかは定かではない。(笑)

これも今季でクビになったビリー・マーチンの話。
6月の試合でブライアン・キングマン投手に「登板せよ。」と命じたところ、相手が「ダメです!」
「ダメとはなんだ!」と言い返したところ、相手が胸を突いた。そこで瞬間湯沸し器のマーチンは
たまりかねてアッパーカットをくらわした、という事件もあったり。
マーチンがまるでサンドイッチマンよろしく、テンガロン・ハットにウエスタンシャツを着ているのは
なかばヤケのヤンパチの開き直り?と思うのは私だけでしょうか。(笑)

ロサンジェルス・ドジャースのトム・ニーデンファー投手が
サンディエゴ・パドレスの打者に向かってビーンボールを投げた。

審判がそう判断したため本人には、罰金500ドルが課せられたのだが、
パドレス側は投手よりも、監督のトム・ラソーダに対して怒りはぶつけられた。
「チビデブのイタ公め。出てきやがれ!」
この選手たちが産まれた頃にはラソーダは大リーグで投げていたのに…。

大先輩に対する礼もなにもないではないですか。

また、マスコミの報道もひどく、ウケ狙いで言いたい放題、書きたい放題。

アトランタ・ブレーブスが春先に走ったときは「南北戦争の仕返しをジョー・トーレはやってくれている」が
8月に2位に落ちると「イギリスに負けたアルゼンチン軍でも、もっとましな抵抗を見せたぞ!」に変わった。

現代の監督には、選手に基本なんかをゆっくりと教えている時間は与えられてはいない。
ひたすら、選手やマスコミ相手に対話を繰り返して、相互理解を深めるだけで精一杯なのだ。
人事部長兼渉外部長兼広報部長といった、すべての雑用を引き受ける係なのだ。

優勝してインタビューを受けるという日向のカゲにこれほどのマイナスの部分が多いとは…。
それでも、一度はやってみたい、いや、何度でもやりたい。
そんな魔力のある職業なのですよ。監督って。(^O^)